国内のホテルの2022年から2024年までの3年間における建築費の水準を紹介します。
データは建築着工調査、工事費予定額を床面積で割り坪当りの建築費(単位:万円)を算出しました。
全国のホテル建築費の坪単価は195万円
2024年の全国のホテル(対象2,831件)の建築費坪単価は全体で195万円です。構造別には鉄筋鉄骨コンクリート造(対象17件)が最も高く坪単価324.4万円。以下、鉄筋コンクリート造(対象267件)が坪単価173.6万円、鉄骨造(対象1,087件)が坪単価164.7万円、木造造(対象1,361件)が坪単価123万円となっています。
2022年から2024年までの3年間の推移を構造別にまとめると次の通りになりました。
■構造別にみたホテル建築坪単価(単位万円)の推移
2022年 | 2023年 | 2024年 | |
総計 | 138.3 | 137.6 | 195.0 |
木造 | 73.3 | 100.3 | 123.1 |
鉄筋鉄骨コンクリート造 | 182.2 | 135.0 | 324.4 |
鉄筋コンクリート造り | 147.8 | 153.5 | 173.6 |
鉄骨造 | 141.2 | 133.7 | 164.7 |
2022年を基準に2年間のホテル建築単価の高騰率は次の通りです。
■構造別にみたホテル建築単価の上昇率
2022年 | 2023年 | 2024年 | |
総計 | 100.0% | 99.4% | 141.1% |
木造 | 100.0% | 136.9% | 168.4% |
鉄筋鉄骨コンクリート造 | 100.0% | 74.1% | 178.1% |
鉄筋コンクリート造造り | 100.0% | 104.0% | 117.4% |
鉄骨造 | 100.0% | 94.6% | 116.6% |
建築単価の上昇率でみると、鉄筋鉄骨コンクリート造、木造の高騰が際立っています。木造でいえば、2022年に73万円台であった建築坪単価が僅か2年で123万円台と50万円の高騰となり、その結果、木造と建築費が鉄骨造のそれに近付いてきています。
全国リゾート地9道県の建築坪単価
次に2024年の全国リゾート地の建築費の坪単価についてまとめました。
リゾート地については、「北海道」「栃木県」「千葉県」「山梨県」「長野県」「静岡県」「滋賀県」「兵庫県」「沖縄県」の9道県を選んでいます。
なお公表データ(建築着工調査)の関係上、以下の数値は「宿泊業・飲食業用途」を合算したものになります。
飲食業と比べて宿泊業の工事単価は10~20%高くなるので、以下のデータについても、その分を考慮してご覧ください。
まず、各県の構造別のホテル建築数は次の通りです。
総計 | 木造 | 鉄筋鉄骨コンクリート造 | 鉄筋コンクリート造 | 鉄骨造 | コンクリートブロック造 | |
リゾート9道県 | 1,857 | 1,067 | 7 | 151 | 569 | 14 |
北海道 | 362 | 227 | 1 | 29 | 102 | 0 |
栃木県 | 123 | 91 | 0 | 1 | 31 | 0 |
千葉県 | 286 | 128 | 0 | 6 | 147 | 0 |
山梨県 | 276 | 249 | 0 | 3 | 21 | 0 |
長野県 | 233 | 143 | 0 | 9 | 72 | 0 |
静岡県 | 116 | 61 | 0 | 7 | 48 | 0 |
滋賀県 | 103 | 42 | 0 | 2 | 41 | 0 |
兵庫県 | 165 | 99 | 2 | 5 | 57 | 0 |
沖縄県 | 193 | 27 | 4 | 89 | 50 | 14 |
木造と鉄骨造で全体の85%程度を占めており、その他については数が少なくデータの信憑性に乏しいので、今回は木造と鉄筋コンクリート造、鉄骨造のみご紹介します。
■木造ホテルの建築坪単価
全国のリゾート地で木造ホテルの建築費坪単価が最も高いのは山梨県139.6万円、ついで長野県134.3万円、千葉県130万円となりました。
逆に最も安いのが兵庫県の95.7万円となり、山梨県と兵庫県では坪単価で44万円もの差がついています。
一方、単価の上昇率をみると9道県平均で165.8%、こちらも山梨県の上昇率が最も高く246.6%と2022年から2.5倍近くまで高騰しています。その他、千葉県243%、静岡県237.1%と続き、長野県は逆に92.1%と2022年を下回りました。
ホテル(木造)の建築坪単価の推移(単位万円)
2022年 | 2023年 | 2024年 | |
リゾート9道県 | 74.9 | 95.0 | 124.1 |
北海道 | 67.7 | 98.3 | 123.8 |
栃木県 | 68.0 | 80.9 | 107.6 |
千葉県 | 53.5 | 79.5 | 130.0 |
山梨県 | 56.8 | 97.7 | 139.6 |
長野県 | 145.5 | 137.6 | 134.3 |
静岡県 | 51.5 | 94.1 | 122.1 |
滋賀県 | 69.6 | 61.7 | 102.0 |
兵庫県 | 46.2 | 85.5 | 95.7 |
沖縄県 | 75.9 | 118.8 | 101.3 |
山梨県は富士五湖周辺を中心に、訪日観光需要を見越してヴィラやコテージ等の簡易宿所が建築ラッシュとなっており、それに伴い木造建築費も高騰している模様です。
■鉄筋コンクリート造ホテルの建築坪単価
対象151施設のうち、北海道と沖縄県で118とその大多数を占めています。
9道県平均の坪単価は183.2万円、最も高いのは長野県ですが母数が少なく参考になりません。北海道は坪単価203.3万円、沖縄県は坪単価178.2万円となりました。
単価上昇率をみると9道県平均117.4%となり、木造と比較すると上昇率は抑え気味です。県別では北海道が258.7%と際立っています。
ホテル(鉄筋コンクリート造)の建築坪単価の推移(単位万円)
2022年 | 2023年 | 2024年 | |
リゾート9道県 | 162.7 | 150.5 | 183.2 |
北海道 | 78.5 | 220.1 | 203.3 |
栃木県 | 215.5 | 31.4 | 179.9 |
千葉県 | 122.4 | 87.8 | 150.5 |
山梨県 | 461.3 | 134.0 | 148.2 |
長野県 | 93.4 | 73.9 | 299.0 |
静岡県 | 132.3 | 135.0 | 173.9 |
滋賀県 | 270.9 | 325.7 | 118.1 |
兵庫県 | 136.0 | 93.4 | 94.1 |
沖縄県 | 180.8 | 157.1 | 178.2 |
■鉄骨造ホテルの建築坪単価
構造別にみると木造の次に多い鉄骨造。
全国のリゾート地で鉄骨造りの建築坪単価が最も高いのが北海道の231.3万円。北海道は建築費が他県と比べて割高なイメージがありますが、データで見てもその通りの結果となりました。
北海道についで高いのが、兵庫県の坪単価217.8万円、長野県の195万円、山梨県182.2万円です。長野県、山梨県は木造とあわせ、鉄骨造も上位にランクインです。
逆に滋賀県84.4万円、栃木県98.3万円は上位の県と比べ、半分以下の単価であるのが分かります。
一方で単価上昇率をみると9道県平均で158.9%です。全国平均(116.6%)と比べ、リゾート地における鉄骨造の単価上昇が顕著であり、これもインバウンド需要を背景とした旺盛なホテル新築需要によるものと思われます。
県別にみると、兵庫県が220%と最も高く、北海道194.3%、静岡県178%と続く一方で、滋賀県90.5%や千葉県95.9%は2022年対比で単価が下落しており、県毎に差がはっきりと生じています。
ホテル(鉄骨造)の建築坪単価の推移(単位万円)
2022年 | 2023年 | 2024年 | |
リゾート9道県 | 118.5 | 104.6 | 188.4 |
北海道 | 119.1 | 41.3 | 231.3 |
栃木県 | 80.2 | 142.9 | 98.3 |
千葉県 | 159.1 | 137.3 | 152.5 |
山梨県 | 108.2 | 126.1 | 182.2 |
長野県 | 135.6 | 165.3 | 195.0 |
静岡県 | 90.4 | 82.5 | 160.7 |
滋賀県 | 93.7 | 91.4 | 84.8 |
兵庫県 | 99.0 | 117.5 | 217.8 |
沖縄県 | 111.2 | 88.1 | 109.6 |
2024年ホテル建築坪単価まとめ
ホテル建築費は全国的に顕著な上昇傾向にあり、2024年には全国平均で坪単価195万円と過去最高を記録しました。一見すると、全国一律に建築費が高騰しているように捉えられがちですが、本記事による分析から、地域ごとの明確な差異が浮かび上がってきました。
訪日観光需要が活況を呈する北海道、山梨県、静岡県などにおいては、上昇率、単価ともに高い水準にあります。これは、インバウンド需要を見込んだ新規ホテルや簡易宿所、貸別荘の開発が活発である一方、資材価格や労務費の高騰がダイレクトに影響しているためと考えます。
対照的に、栃木県や滋賀県など、訪日観光需要が相対的に低い地域では、建築費の上昇幅は限定的です。この地域差は、今後のホテル投資戦略を検討する上で極めて重要な要素となりましょう。
建築費が高騰する中のホテル投資
訪日観光需要が旺盛なエリアは、高い稼働率と客室単価が期待できる反面、高騰する建築費が投資回収期間(CAPレート)を悪化させる要因となり得ます。
特に過度な建築費の上昇は、事業の収益性を圧迫し、投資リスクを高める可能性があります。
これらエリアにおける新規投資においては、慎重な市場調査と事業計画の策定が不可欠であり、需要予測の精緻化はもちろんのこと、短期間での建築費の上昇リスクも織り込んだ上で、適切な投資判断を行う必要があります。
ホテル投資においては、地域ごとの市場動向と建築費の差異を正確に把握することが不可欠です。
訪日観光需要が旺盛なエリアでは、高い成長性が期待できる一方、地価や建築費の高騰による投資回収期間の長期化というリスクも考慮しなければなりません。
投資回収期間(CAPレート)改善につながる高収益なビジネスモデルの開発、工事費削減に向けた多角的なアプローチを企画することにより、持続性の高いホテル投資を実現していただきたいと考えます。
私たちは、ホテル、旅館、バケーションレンタルの運営を軸に、立地開発から施設設計・施工、運営、販売促進、食材開発、アクティビティ販売、資材輸入に至るまで、全てを内製化することで独自の競争優位性を確立してまいりました。
業界に先駆け、シェア別荘システム、高級バケーションレンタル、グランピング施設、ペットツーリズム特化型宿泊施設など、時代のニーズを捉えた新しいビジネスモデルを開発・展開することで、常に変化する市場をリードしています。
近年、ホテル事業を取り巻く環境は厳しさを増しており、建築費や地価の高騰に加え、人件費、食材費、運営経費の上昇は、収益性の悪化と投資回収期間の長期化という深刻な課題を引き起こしています。
こうした状況に対し、私たちは長年の事業運営で培ってきたノウハウと総合力を活かし、これらの課題を解決するための革新的なビジネスモデル開発に注力してまいりました。
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