この記事ではリゾート不動産のバリュエーションについて書いています。
バリュエーションとは、「対象物件を評価し適正な価値を求めること」であり、事業の起点となる極めて重要な実務です。
この記事は、ホテルや旅館等のリゾート施設開発に携わる私たちが、事業者が投資判断を行う上で参考にいただけるバリュエーションについて、実務家の視点を入れながら書きました。
この記事の目次
バリュエーションの手法
リゾート不動産には、「現に収益を生み出しているホテルや旅館、貸別荘」、ならびに「更地(場合によっては取り壊し予定の建物あり)を開発し、ホテルや旅館、貸別荘を建築する」の2パターンがあります。
いずれのパターンにも、今回ご紹介するバリュエーション手法は使えます。
リゾート不動産のバリュエーション手法は収益還元法です。
収益還元法とは、「将来生み出すであろうと予想される純収益の現在価値の総和から、対象物件の適正価格を求める手法」であり、直接還元法(DC法)とDCF法とがあります。
DC法とDCF法のいずれかを用いるかは、それぞれの考え方がありますが、当社の場合は簡便性や他物件と比較容易であることからDC法を用いて評価しています。
直接還元法(DC法)とは
DC法(Direct Capitalization Method)は、対象となる不動産から得ることのできる年間の純収益(NOI)を一定の還元利回りで割って計算する方法です。
1年間の純収益NOI ÷ 還元利回り = 不動産価値 |
*純収益NOI:年間の総収入(賃料収入など)から運営費用(保険料や租税公課など)を差し引いた金額
【DC法計算例】
純収益 : 1,000万円
還元利回り: 5%
DC法による不動産価値: 2億円(1,000万円÷5%)
DC法は将来のマーケット予測が難しい場合など、評価が難しいケースもありますが、計算が簡単な点が利点です。
実務上は、例えば土地を更地から仕入れてホテルを建築する場合、算定した不動産価格を次のように評価、評価に基づき各数値を調整することになるでしょう。
不動産価格 × 想定利回り = 期待する純収益 想定する純収益 ÷ 不動産価格 = 期待する利回り |
ホテル、旅館、貸別荘の賃料収入を検証
ホテル等の宿泊施設では、ADR(客室単価)、OCC(稼働率)を基にした客室売上に、付帯する売上(飲食売上等)を加算して売上を算出、そこから運営経費を引いてGOP(営業総利益)を求め、これに基づき賃料収入を検証します。
GOP = 売上 - 運営経費 |
ADRとOCCを決めるのは、立地、ホテルの仕様や付加価値性、社会動向、競合動向等です。また季節性や平日と休日によりADRとOCCは変動するのが宿泊施設の特徴です。
楽天トラベル等の予約サイトで類似競合施設の宿泊単価の調査、観光庁や自治体が発表する稼働率データの調査等により、ADRやOCCに基づく売上を算出します。
運営経費の算出は、こちらの記事も参考になさってください
売上の20%、売上と賃料を引いた後のGOPの比率が20~40%が、運営側からみた賃料の期待値です。
純収益NOIの算出
リゾート不動産投資家にとって、毎年得られる純収益が利払いの原資であり、利益の源泉であり、この純収益を目的として将来の売買が行われます。
バリュエーションにおいては、純収益を査定し、物件の不動産価値を求めます。
NOIは、賃料から必要なコストを引いて算出します。
賃料 - 総費用 = 純収益NOI |
リゾート不動産の総費用にかかる項目は次のような通りです。
物件により費用項目は変わりますし、借主との負担区分も当然に変わります。
・維持管理費:設備管理、保安管理や清掃等にかかる費用
・修繕費:建物設備の修理、改良にかかる費用
・管理費:対象不動産の管理業務にかかる費用
・公租公課:固定資産税、都市計画税
・保険料:火災保険、賠償責任保険等
利回り査定
純収益を不動産価格で割った利回りは、需給バランスの影響を受けます。
ニセコや白馬等の不動産価格が上昇しているエリアの利回りは低下しますし、不人気エリアや観光地として注目を集めていないエリアの場合は、当然に不動産価格は下落し、利回りは上昇します。昨今は建築費の高騰の影響を受け、利回りも低下しています。
利回り査定においては、事例の入手が欠かせません。
計画地近くで類似の先行事例があれば、取引価格やその後の集客状況を調べること、ホテル関連の投資法人の決算関連資料、不動産流通サイトにおける成約情報などから入手しますが、あちこちに公開データがある訳でないので、これには苦労します。
私どもが得意とする戸建ての高級貸別荘バケーションレンタルの場合、一部の例外を除いた平均的な利回りは6~8%程度です。
当社の場合、リゾート不動産の開発支援を行うことを目的として情報提供、計画支援を行っています。相談ベースでは特に費用を頂戴していませんので、具体的な候補物件がおありの場合は、お声がけいただければと思います。
余談になりますが、例外的な事例として以下をご紹介します。
・グランピング
コロナ禍に人気を博したグランピングは、安い借地に、建築費が掛からない仮設物を建てて事業を行いましたので、直営の事例なら1.5年程度で投資回収を終えることが出来ました。現状は供給過剰になり、当時のような利回りは期待出来ないですが、やり方次第では、今も有望な事業モデルであることは間違いありません。
・ドッグリゾート
当社が手がける愛犬家専用施設ドッグリゾートは、建築費の安いコンテナキャビンを採用、都市近郊の出店エリアを間違わなければ、利回り10%超の事例もあります。
・想定外の開発コスト
リゾート不動産の場合、取得時に想定していなかった開発や造成に費用がかかる場合があり、開発コストは賃料含めにくいため期待利回りを下回った事例もあります。
不動産価格の調整
期待する利回りに届かない場合、土地の仕入値交渉、建築のVE(バリューエンジニアリング)検討、客室数の再検討、ビジネスモデルの再検討、賃料収入の見直し、オペレーターの再選定、リース活用など調整を繰り返し、期待利回りに近付けます。
場合によっては断念することも視野に入れることとなるでしょう。
リゾート不動産のバリュエーションについて書いてみました。
まず投資対象となる物件のバリュエーションがあり、それに基づく意思決定があり、投資の実行、期中の運用、出口戦略の流れになり、ひとまず実行すれば後戻りはできない訳です。
全ての活動の基礎となるのがバリュエーションであり、極めて重要な業務です。